はじめに|“SaaS・PaaS・IaaS、結局どれを選べばいいの?”に迷ったことはありませんか?
クラウドの話題になると、必ず登場するのが SaaS/PaaS/IaaS という3つの言葉。
似ているようでいて、実は「どこまで任せられて、どこから自分たちの責任か」という前提が大きく異なります。ここを取り違えると、導入後に「思ったより運用が大変」「自由度が足りない」「コストが読みにくい」といったギャップにつながりがちです。
特に最近は、在宅勤務やAI活用、業務の標準化の流れもあって、クラウド前提の選択が増えています。
その一方で、「今はSaaSで十分?」「スピード重視でPaaS?」「将来の拡張を見据えてIaaS?」 と判断に迷う場面が多いのも事実。違いを理解していないと、「今やるべき?」「後から困らない?」 と意思決定が止まってしまいがちです。
本記事では、知識に自信がない方でもスッと読めるよう、クラウド3兄弟のたとえ話を交えながら、
- 3つの違い(責任分界・自由度・運用負荷)
- 導入メリット/デメリットと実務での使い分け
- コスト最適化(FinOps)の考え方
- セキュリティとガバナンスで外せないポイント
- 最近のトレンドと選定チェックリスト
をコンパクトかつ実務目線で整理します。読み終えるころには、「うちのケースならこう選ぶ」が言語化できるはずです。
まずは結論:30秒でわかる要点
種類 | ざっくり像 | あなたが管理する範囲 | 提供側が担う範囲 | 向いている場面 |
---|---|---|---|---|
IaaS (Infrastructure as a Service) | “土地・電気・空調が整った更地+電気設備”を借りる | OS設定、ミドルウェア、アプリ、監視、バックアップ、セキュリティ設定の多く | 物理サーバ、ネットワーク、電源・空調、ハイパーバイザ等の稼働維持 | 高い自由度、既存システムの移行、細かいチューニング |
PaaS (Platform as a Service) | 基礎と足場が完成した建築プラットフォーム | アプリコード、設定、一部のスケール戦略、データスキーマ | OS/ミドルウェア、ランタイム、スケーリング基盤、パッチ適用 | 短期開発、スピード重視、保守を減らしたい開発 |
SaaS (Software as a Service) | 完成した入居即OKの家(用途に特化したアプリ) | ユーザー管理、権限、使い方の設計、データの運用 | アプリ本体、インフラ、アップデート、可用性 | 業務の標準化、最小限で早く使いたい、非差別化領域 |
キーワードは自由度と運用負荷のトレードオフ。
IaaS → 自由度↑/運用負荷↑、SaaS → 自由度↓/運用負荷↓、PaaSはその中間です。
クラウド“3兄弟”のたとえ話
料理に例えると分かりやすいです。
- IaaS = 自炊
材料(CPU/メモリ/ストレージ)、キッチン(ネットワーク/OS)までは用意されるけれど、メニュー決めから調理・片付けまであなた次第。細かい味付けができる反面、手間は大きめ。 - PaaS = ミールキット
レシピと下ごしらえ済みの材料(言語ランタイム、データベース、ジョブ基盤等)が届く。レシピ通りに作れば素早く美味しく。火加減(スケーリング)や盛り付け(設定)は多少必要。 - SaaS = 出来上がりのお弁当
買ってすぐ食べられる。栄養バランス(機能)はプロが考えて定期的にアップデート。味のアレンジ(拡張)は限定的だが、スピードとコストの見通しが良い。
もう少し専門的に:責任分界(Shared Responsibility Model)
クラウドは「どこまで提供側が守り、どこからがユーザーの責任か」が明確です。
- IaaS:ハード・仮想基盤は提供側。OS以上の層(パッチ、設定、鍵管理、監視)は主にユーザー。
- PaaS:ランタイムやミドルは提供側。アプリやデータ、アカウント管理、接続先の秘密情報はユーザー。
- SaaS:アプリ・インフラは提供側。ID/権限、データの持ち方、操作ログの確認はユーザー。
実務では、ID管理(SSO/MFA)、ログ保全、バックアップの目的別設計(誤操作対策/災害復旧)が要点です。
メリット/デメリットを実務目線で
IaaS
- メリット:柔軟性、既存資産の移行適性、細かいネットワーク/セキュリティ制御、性能チューニング。
- デメリット:運用負荷と専門知識が必要。パッチ遅延や設定ミスのリスク。“作って終わり”にしない体制が必須。
PaaS
- メリット:デプロイ高速化、フルマネージドで保守が軽い、自動スケールや高可用を取り込みやすい。
- デメリット:プラットフォームの流儀に合わせる必要。特定機能に依存すると持ち出し難度が上がることも。
SaaS
- メリット:最短導入、コスト見通し、セキュリティ/機能の継続アップデートを享受。
- デメリット:独自要件に弱いことがある。データ主権・エクスポート方法・APIなどを事前に確認。
部門別の“あるある”ユースケース
- 情報システム部門(コーポレートIT)
コラボレーション、IT資産管理、チケッティング、人事・会計などはSaaS中心で標準化。ID基盤や監査ログ連携は要設計。 - プロダクト開発
新規サービスはPaaS+一部SaaS(認証、課金、メール、監視等)で速く出す。必要な箇所だけIaaSでチューニング。 - データ分析/AI
分析基盤はPaaS型DWH/ストリーム基盤で初速を上げ、モデル実行はサーバレスやジョブ基盤を併用。可視化はSaaSで民主化。
コストの考え方(FinOpsの超要約)
- 見える化
誰が、どの環境で、いくら使っているか。タグや命名規則で紐づけ。 - 最適化
リソースのサイズ適正化、停止スケジュール、ライフサイクル管理。 - 計画
スケールの山谷を予測し、費用対効果を説明できる状態に。 - 継続運用
ダッシュボード/アラートで“無駄の再発”を防止。
重要なのは「単発の削減ではなく、習慣化」。組織横断の合意形成が効きます。
セキュリティとガバナンスの肝
- ゼロトラスト前提の設計
ネットワーク境界だけに頼らない。 - 最小権限+強制MFA
SaaSでもPaaSでもIDが要塞。 - 鍵・証明書の集中管理
シークレットは環境変数直書きを避ける。 - ログの一元化
アプリログ/監査ログ/アクセスログを保持期間と検索速度で設計。 - データ所在地/保持
業界規制や社内ポリシーに適合。持ち出し・削除手順も明文化。
押さえておくと差がつくポイント
- サーバレス指向
利用した分だけ課金し、自動スケール。PaaSの発展型としての位置づけ。 - コンテナ基盤の一般化
プラットフォーム運用を“内製PaaS”化する動き。標準技術で移植性を確保。 - AI活用の“サービス化”
学習済みモデルやエージェント基盤をAPI/SaaSとして利用。初期投資を抑え俊敏に検証。 - 統合ID/権限管理
SaaS横断でプロビジョニング自動化、監査証跡を一元化。 - サステナビリティ指標
消費電力・炭素排出の観点でクラウド構成を最適化する企業が増加。
選定チェックリスト(保存版)
- 要件の性質
差別化領域か(自社らしさ)、非差別化か(標準化でよい)。 - 導入スピード
いつまでに?スモールスタート可否。 - 拡張性
API/拡張機構、ワークフロー自動化。 - データ主権
所在、バックアップ、エクスポートの実用性。 - 可用性/DR
RTO/RPOの妥当性、地域冗長。 - セキュリティ
MFA、ログ、暗号化、監査対応。 - ベンダーロックイン
代替手段と出口戦略(データ/設定の持ち出し)。 - コストモデル
固定/変動、見積り容易性、将来のスケール。 - 運用体制
誰が回す?スキルと人員。 - 法務/コンプライアンス
契約条件、SLA、サポート体制、日本語サポートや時差の影響。
よくある誤解をサクッと訂正
- 「SaaSは全然カスタムできない」
→ 多くのSaaSは設定・権限・連携・自動化で十分に業務最適化が可能。まずは要件を分解しよう。 - 「PaaSはロックインが強いからNG」
→ 標準言語・コンテナ・オープンAPIを使えば持ち出し容易性を上げられる。設計とガバナンスがカギ。 - 「IaaSならオンプレと同じ感覚でOK」
→ 課金・可用性・セキュリティモデルが違う。クラウド前提の設計にアップデートを。
使い分けの思考フロー(ミニ版)
- “まず動かしたい/標準業務” → SaaS
- “開発スピード最優先/差別化機能に集中” → PaaS+必要に応じSaaS連携
- “性能チューニング/特殊要件/レガシー移行” → IaaS(段階的にPaaS化も検討)
実務ではハイブリッドが普通。SaaS+PaaS+一部IaaSの“いいとこ取り”を、ID/ログ/ネットワーク/監査で束ねるのが現実解です。
まとめ|クラウド3兄弟を味方に
- IaaSで自由度、PaaSでスピード、SaaSで標準化と省力化。
- 鍵は責任分界の理解と出口戦略(データ/設定の持ち出し)。
- コストは仕組みで止血(FinOps)、セキュリティはIDとログで土台固め。
今日の業務・新規プロジェクト・将来の拡張、どの観点から見ても“今の自分たちに必要なレイヤー”を選べば、クラウドはもっと強い味方になります。
参考に:用語の超簡易まとめ
- IaaS:仮想サーバ、ストレージ、ネットワーク等の基盤をサービスとして提供。
- PaaS:アプリ実行に必要なプラットフォーム(言語ランタイム/DB/ジョブ基盤など)を提供。
- SaaS:業務に必要なアプリケーションそのものを提供。
ご相談ください|「SaaS・PaaS・IaaS、どう選べばいい?」そんな時に
- 社内システムの要件で、どれが最適か判断に迷っている
- 既存システムの移行計画やハイブリッド化を検討したい
- セキュリティ/ガバナンス/監査対応(MFA・ログ・権限)をどう設計すべきか悩んでいる
- コスト最適化(FinOps)や見積もりの妥当性を確認したい
- ベンダーロックインや出口戦略(データ/設定の持ち出し)を整理したい
- 運用体制(監視・バックアップ・ID統合)の立ち上げを支援してほしい
- まずは小さく検証(PoC)して意思決定につなげたい
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