はじめに|もしかして…「ネット遅いかも?」
「在宅勤務でもオフィスでも、ふとした瞬間に現れる「ページが開かない」「会議がカクつく」「クラウド保存が終わらない」というもどかしさ。
その一言で片づけてしまいがちな症状が“ネットが遅い”です。
似たように見えて、実は原因はさまざま。
Wi-Fiの電波なのか、契約回線なのか、はたまたPCやスマホの設定、VPN、時間帯の混雑なのか——。
違いを理解していないと「ルーターを買い替えるべき?」「プロバイダの問題?」「とりあえず再起動でいい?」と、対処が場当たり的になりがちです。
この記事は知識に自信がない方でも手順どおりに進めれば原因の見当がつくように、やさしく、でも専門的な観点もしっかり盛り込んだ総合ガイドです。自宅・オフィスの両方で使える切り分けの型と改善の勘所をまとめました。
5分でできる応急処置(効果の出やすい順)
- 端末の再起動/Wi-Fiのオフ→オン(ドライバの不安定化・一時的バグを解消)
- 場所を3m移動(壁・家具・人で電波状態が激変することが多い)
- 別回線で比較(スマホのテザリング等)→回線起因か端末起因かをざっくり切り分け
- ルーターの再起動(連続稼働でメモリが詰まる機種もある)
- プロバイダや社内の障害情報を確認(「今日は全体的に重い」の可能性も)
- VPNの再接続/一時切断で比較(会社PCはVPNがボトルネック化することあり)
応急処置で改善したら、「原因がどこだったか」を後述のチェックリストで再確認しましょう。
自宅編:原因別チェックリスト
1) 物理・配線
- LANケーブルの規格:カテゴリ5e以上(可能ならCat6/6A)を使用。古いCat5や劣化品は速度低下の典型。
- 二重ルーター問題(ONU→家ルーター→市販ルーターの多段NAT)
→ 片方をブリッジ/APモードにして二重NATを回避。 - ルーターの設置場所:床置き・金属棚・電子レンジ近傍は避ける。高い・開けた場所へ。
2) Wi-Fi設計
- 帯域の選択:
- 2.4GHz=遠くまで届くが混雑しやすい
- 5GHz=速い・安定、遮蔽物に弱い
- 対応機器があれば**6GHz(いわゆるWi-Fi 6E)**は干渉が少なく快適
- チャネル最適化:2.4GHzは1/6/11のいずれか。隣家とかぶる場合は別チャネルへ。
- チャネル幅:80MHzは高速だが干渉に弱い。混雑環境では40MHz/20MHzに落とすと安定するケース多数。
- 旧端末の混在:古い規格(11b/g等)が1台いるだけで全体が引きずられることも。古い機器は2.4GHzに分離、SSIDを分けるのが有効。
- メッシュWi-Fiの活用:広い・縦長住宅は中継器乱用よりメッシュ。有線バックホール(光ファイバーやLANケーブルなどの有線でデータを送る方式)が理想。
3) 回線・契約(日本でよくあるポイント)
- PPPoEの混雑 vs IPv6 IPoE系(v6プラス等)
→ 夜間・昼休みに極端に遅いならIPoE対応ルーター+IPv6オプションを検討。 - プランの実効値:表記「最大○Gbps」は理論値。宅内配線・機器性能で頭打ちになります。
→ ルーター/PCの**有線ポート速度(1GbE/2.5GbE)**も要確認。
4) ソフトウェア・端末
- バックグラウンド通信:
クラウド同期(写真・動画)、OS更新、オンラインバックアップ、P2Pソフト等が上り回線を専有して体感を悪化させがち。
→ 大容量同期は夜間に予約・「アップロード速度を制限」設定を活用。 - バッファブロート対策:
上りが詰まると遅延が跳ね上がる現象。対応ルーターのQoS/SQM(Smart Queue Management)を有効化し、上り実効値の80〜90%に制限すると改善することが多い。 - セキュリティ:
不審なプロセスやブラウザ拡張が帯域を消費することも。不要拡張の無効化・信頼できるセキュリティ対策を。
会社編:ネットワークの「設計」と「運用」を点検
1) 構成の基本
- VPN方式:
- フルトンネルはセキュアだが帯域が集中(在宅勤務ピークで輻輳しがち)。
- スプリットトンネルでSaaSは直接、機密系はVPN経由にする設計も選択肢。
- ZTNA / SD-WAN:
拠点間・クラウド間の最適経路選択、アプリ別QoS、障害時の自動フェイルオーバーで体感向上。 - プロキシ/ファイアウォール:
コンテンツフィルタやTLSインスペクションが遅延のボトルネックになっていないか。
→ アプリベースの帯域制御(会議系優先)や例外ルールの設計を。
2) 無線LAN(エンタープライズ)
- 容量設計:APの最大同時接続目安、会議室のピーク同時数を考慮。
- チャネル計画:隣接APのチャネル重複を避ける。DFSチャネルの扱いに注意(レーダー検出で切り替えが起きる)。
- ローミング最適化:802.11k/v/rの活用、スティッキー端末対策。
- ゲスト/IoT分離:VLANやPSK分割で社内トラフィックと切り離し。
3) 運用・監視
- 可視化:
SNMP/フローデータ(NetFlow/sFlow/IPFIX)でどのアプリがいつ帯域を使うかを見える化。 - IPアドレス・DHCP枯渇:
取得失敗で「遅い」ように見える問題。リース時間・プールを適正化。 - ファームウェア管理:
既知の不具合・メモリリークは更新で解決することが多い。定期的な計画アップデートを。
体系的な切り分け手順(家庭・会社 共通)
- 同じ端末で
- Wi-Fi → 有線に切り替えて速度・遅延を比較。
→ 有線で改善=Wi-Fi層の問題。有線でも遅い=回線/上位の問題濃厚。
- Wi-Fi → 有線に切り替えて速度・遅延を比較。
- 同じ場所で
- 端末Aと端末Bを比較。片方のみ遅い=端末側の問題(ソフト・ドライバ・古い規格等)。
- 上りと下りを分けて
- 上りだけ遅い・会議が途切れる=バッファブロート(データの詰まりすぎによるデータの遅延)やクラウド同期の専有を疑う。
- VPN/プロキシの有無で
- VPN OFF(許可される範囲で)とONを比較。ONでのみ遅い=VPN経路の輻輳。
- 時間帯比較
- 昼休み・夜間だけ遅い=網終端の混雑やオフィスのピークトラフィックを疑う。
- ルートの可視化
ping
で遅延/損失、traceroute
で経路の異常を把握(難しければスクショを記録して専門家へ)。
よくある落とし穴
- 市販中継器の多段接続:電波は“伸びる”のではなく弱い信号をさらに弱く延ばすことも。→ メッシュか有線バックホールが王道。
- 古いルーターを使い続ける:Wi-Fi 4/5世代やCPU性能不足機は、同時接続で急にレイテンシが悪化。
- 「DNSを変えれば速くなる」の誤解:体感改善はケースバイケース。まずは無線・回線の根本を整えるのが先決。
- ブラウザ拡張・常駐ツール:広告ブロックやセキュリティ機能がページ描画を遅らせることあり。一時無効で比較を。
- 電波“強度”だけを見がち:満格表示でもチャネル混雑や干渉でスループット(ネットワークを通じて実際に送受信できるデータ量のこと)は出ません。
改善のロードマップ(すぐ効く打ち手 → 本格対応)
すぐ効く(今日から)
- ルーター位置の見直し/SSID分離(2.4GHzと5GHz)
- クラウド同期・バックアップのスケジュール化
- ルーターのQoS/SQM有効化(上り制限80〜90%)
- ブラウザ拡張や常駐アプリの棚卸し
近中期(週末に)
- IPoE/IPv6オプションへの切替+対応ルーター導入
- メッシュWi-Fi(2台以上)+可能なら有線バックホール
- Cat6/6Aケーブルと1GbE/2.5GbEスイッチへの更新
- 会社なら会議系アプリ優先のQoS・APのチャネル再設計
本格対応(計画投資)
- Wi-Fi 6/6E対応APへ更改、コントローラでローミング最適化
- SD-WAN/ZTNAでクラウド直収と冗長化
- ネットワーク監視基盤の整備(フロー可視化・アラート)
「この状態」になったらプロに相談
- 有線でも遅く、時間帯で極端に変動する
- VPN・プロキシを通すとだけ不安定(設定・経路設計の見直しが必要)
- 社内Wi-Fiで“場所によって”体感差が大きい(無線設計・電波測定が必要)
- IoTやPOS、監視カメラ等が増えてから遅くなった(VLAN分離・帯域設計が必要)
設計・測定・運用のどこにボトルネックがあるかを定量的に見極めるのが近道です。
まとめ:まずは「切り分け」、次に「設計」
- 速度・遅延・ジッタの3点で現象を定義
- 有線/無線・端末/VPN・時間帯で切り分け
- 家庭はIPoE+メッシュ+QoS、会社は設計(チャネル・QoS)と可視化が王道
「なんとなく遅い」を放置せず、小さな手当てから始めて構造的な改善へ。今日からできることはたくさんあります。
ご相談ください|「ネットが遅い、どこから手を付ければ?」そんな時に
- 自宅/オフィスのどこが原因なのかを切り分けたい(Wi-Fi・回線・端末・VPN など)
- IPv6(IPoE)切替やルーター/メッシュ Wi-Fi の選定を相談したい
- 会議室やフロアの無線チャネル設計・電波測定をプロに任せたい
- VPN/プロキシ/ZTNAの見直しで、リモート会議の途切れを改善したい
- SD-WAN 導入や拠点間の冗長化、クラウド直収を検討している
- ネットワークの可視化(フロー監視・アラート)を整備したい
- 現状を診断してレポート化し、改善計画までまとめてほしい
そんな時はぜひ、私たちにご相談ください!
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